「心配しすぎる、考えすぎる、備えすぎる」→それ、社交不安症かもしれません。
1.社交不安症とは?
社交不安症とは、人と接する恐怖感・不安感が大きく、社交的な場面で極度に緊張する不安症です。かつては対人恐怖症とも呼ばれました。
社交不安症は悩んでいる本人さえも性格の問題と思い込み、病気だと認識していない人が多いと言われます。本人でさえ病気と認識していないため、周囲はなおさら病気などとは思っていません。「誰でも緊張はするもの」「気の持ちよう」「場数を踏めば大丈夫」という無茶ぶりな激励が患者を孤立させることもありえます。
社交不安症は性質上、社会的孤立を招きやすい病気です。学校や会社といった社会的行動が避けられない場所が苦痛に感じられ、不登校や退職につながるケースも珍しくありません。あるデータによると、社交不安症患者の4割が無職とも言われています。
社交不安症は放っておいて勝手に治る病気ではありません。その一方で、治療をすれば治る病気です。どうか「性格だから」と諦めるのではなく、「治療すれば治る」と希望を持ってください。
2.社交不安症の症状
病気を治す第一歩は病気を知ることです。病気の症状を知れば、「自分は今こういう状態だな」と客観視することができます。それでは社交不安症の症状を見ていきましょう。
2-1.心配しすぎる
社交不安症では、「自分がどう見られているか」にとらわれ、他者からの評価が心配しすぎます。失敗を極度に恐れ、「変じゃないか?」という不安・緊張が長く付きまといます。
社交不安症でなくとも、人前で話す場面では緊張はありますが、社交不安症の場合は頭が真っ白になる、手足が震える、汗が止まらなくなる、と度を過ぎた緊張状態に襲われます。これら症状が「自分は変なんだ」と思わせ、他者の目を心配するという悪循環に陥ります。
2-2.考えすぎる
社交不安症では、悪い結果ばかりを考えて回避行動を取ることがあります。その背景には他者からの批判や否定を極度に恐れる心理があります。相手には否定の意図が無くても、物事を否定的に解釈する傾向もあります。
2-3.備えすぎる
社交不安症では、心に付きまとう不安から細かな対策を立てがちです。しかし、社交不安症では細かな対策を立てまくる傾向があり、対策の負担が本人を圧迫します。不安感への対策が減ることは無いので、負担は増える一方です。対策はやがて回避行動へと変わり、社会的な場面を避けるようになります。
3.個別の症状
社交不安症は人前で”何か”をする状況に不安と緊張を感じます。その”何か”には次のようなものがあります。
- 人と話すのが恐い(対人恐怖)
- 人前で話せない(スピーチ恐怖)
- 電話に出られない(電話恐怖)
- 視線が恐い(視線恐怖)
- 人と一緒に食べるのが苦痛(会食恐怖)
- 人前で文字を書くと震える(書痙)
- お腹が鳴るのが心配(腹鳴恐怖)
- 人が近くにいると排尿できない(排尿恐怖)
社交不安症でない人からは、「そんなことで・・・」と思うような場面でも、社交不安症患者の場合は大きな苦痛になります。深刻になると苦痛な状況を回避するために社会生活すらままならなくこともありえます。
ちなみに僕は排尿恐怖を抱えています・・・。ひどい時は尿意があっても排尿できないため、トイレが心配でならなかった時期もあります。今は症状は改善して、トイレの心配は無くなりました。
4.治療法
社交不安症には認知行動療法を主軸として、薬物療法を併用することが有効です。
認知行動療法とは、認知の偏りを見直し、気持ち・行動を改善していく治療プログラムです。社交不安症では心配しすぎ、考えすぎ、備えすぎの3つを改善していくことになります。
プログラムの実例を2つほど挙げます。
1つはマイルールの見直しです。社交不安症の人は不安に駆られて過剰な対策を作り過ぎる傾向にあります。例えば苦手な発表をする際に
- 顔を見られないように資料で顔を隠す
- 原稿は一字一句決めておく
- 手の震えを見られないように手を隠す
などといったマイルールを設けていることが多々あります。
まず、これらのマイルールを書き出してリストアップします。そしてマイルールを実践した場合と、全く実践しなかった場合の2通りを実行し、その違いを比較するのです。するとマイルール無しでも「意外といける」という感覚を持つことできます。何度か練習することで、これまでの認知の偏りに気づき、行動を改善することができます。
2つ目の例は小さな失敗をしてみることです。社交不安症の人は「失敗したら終わりだ」「恥をかいたら終わりだ」という思いが非常に強いです。この思い込みを打破するために、あえて小さな失敗をするのです。
例えば、いつも身なりを整えておかなければ不安なら、あえてヨレヨレの服で外に出かけます。「そんなことをしたら周囲に笑われる」と思うかもしれませんが、実際にやってみると多くの気づきが得られます。「ほとんどの人は気にも留めてなかった」や「見てくる人もいたけど一瞬だけの出来事だった」といった気づきです。これらの気づきから「多少の失敗は大したことない。失敗しても人生の終わりではない。」と失敗への恐怖をやわらげることができます。
これらの治療を受けるには精神科・心療内科といった医療機関に相談してください。その際に注意してほしいのは、認知行動療法と薬物療法を併用している医療機関を選ぶことです。医療機関によっては、薬物療法オンリーの治療法を採用しています。そのような医療機関は薬物療法以外の手立てを持たないため、薬漬けにされる可能性があります。事前にネット等で調べたうえで医療機関を選んでください。
5.最後に
社交不安症は本人でさえ病気だと気づいていない人が多い病気です。「性格だから仕方がない」と諦めている人も多いと言われています。
社交不安症は治る病気です。正しく治療すれば良くなります。一方で放置して治る病気ではありません。「これは病気だ」と受け入れて治療への第一歩を踏み出してください。
今回の記事は『社交不安症がよくわかる本』を参考にして書きました。豊富なイラストとやさしい文章は分かりやすく、社交不安症に悩む人に自信を持ってオススメできる本です。本人のみならず、家族もこの本を読むことで病気への理解が深まると思います。
病気治療の原則は病気を知ることです。本記事があなたの人生を好転につながるきっかけとなれば幸いです。