進化医学の視点から見た「うつ」という文明病
「うつとは一体何なのか?」
この問いに対する答えは様々です。
本記事では、進化医学の視点から「うつ」とは何なのかを紹介します。
1.進化医学とは?
進化医学とは進化論をベースとして病気の正体を考える学問です。
ダーウィンが生み出した進化論と最新医学のデータを組み合わせたものです。
現在の人類が形作られたのは680~700万年ほど昔のこと。
私たちの祖先は動物を狩り、木の実や山菜を採る生活を送ってきました。
そんな人類が農耕を始めたのはたかだか1~2万年前のことです。
つまり、人類は600万年以上は狩猟や採集といった生活を続けてきたわけで、農耕を始めたのは最近の話です。
この時間軸で見ると、人類は狩猟や採集を前提とした環境で能力を発揮できるように進化してきたと考えるのが自然です。
自然の中で獲物を追い、木の実・山菜を集め、少数の仲間と語り合い、日の出とともに活動し夜になれば寝る。
人間は、このような環境で最も力を発揮できるように進化してきたのです。
2.人類と現代文明のミスマッチ
進化医学の視点から人類と現代文明を突き合わせると、様々なミスマッチがあります。
そのミスマッチによって生まれたのが文明病です。
文明病の分かりやすい例は「肥満」です。
私たちの祖先が生きていた古代の環境では、食料は非常に貴重な資源でした。
現代のように食料が安定的に供給されない古代においては、今日や明日の食料は保証されていません。
そのため、人類は食べられるときに限界まで食べて、余りは体に蓄えるように進化しました。
古代においては「食べられるときに限界まで食べる」という戦略が生存の可能性を高めてくれたのです。
ところが、現代においてはこの戦略が裏目に出ます。
現代の文明社会では、古代とは比較にならないほど食料が豊富です。
しかし、人類の脳と体には「食べられるときに限界まで食べる」という戦略が遺伝子レベルでインプットされています。
その結果、人類は「肥満」という古代ではありえなかった病気に悩むようになりました。
このように、古代環境に最適化している人類にとって現代文明の環境は想定外です。
このミスマッチによって生まれたのが、生活習慣病などの文明病なのです。
3.「うつ」という文明病
うつは世界中で増加しており、年間で100万人もの命を奪う社会問題です。
日本でもうつは大きな社会問題となっており、1996年に43万人だったうつ患者は2008年には104万人に増加しています。
科学技術が発達し、文明は著しく進歩したにもかかわらず、なぜここまでうつが増えたのか?
冷静に考えれば不思議な話です。
古代において脅威だった猛獣・謎の疫病・食糧不足といった問題は、現代においては存在しません。
文明が発達することで不安は解消できたはず。
なのにうつ患者は増えている。
どう考えても割に合いません。
ここで、進化医学の視点からうつについて考えてみます。
そもそも、人はなぜうつになるのか?
進化医学における仮説は、「人は進化の過程でうつを獲得した」というものです。
古代の環境において、うつが生き残りに有利な生存戦略であったという考えです。
うつになる原因は様々ですが、長期に渡って強いストレスを受け続けることでうつのリスクは高まります。
現代の文明社会では、職場の人間関係や将来の経済的不安といったストレスが絶えず我々を襲います。
これは、古代では考えられなかったストレスです。
古代においてもストレス自体はありました。
古代におけるストレスは猛獣や飢餓、疫病といった大きいが短期で終わるストレスでした。
そして、我々の脳は短期のストレスに対して対処できるように進化しています。
しかし、現代の人間が直面しているストレスは短期で終わるストレスではありません。
長々と続く、古代では存在しなかったストレスです。
長々とストレスが続くと、私たちの脳は次のように判断します。
「ここは危険だ。逃げて身を隠すんだ!」
その時に脳はどうやって私たちを動かすか?
脳が用いるのは「うつ」という感情です。
ひどく落ち込ませることによって、身を隠すように仕向けるのです。
この生存戦略は、古代においてはうまく機能した可能性があります。
どうしようもない危険から身を隠す戦略は、危険だらけの古代で私たちの祖先を助けてくれたかもしれません。
しかし、現代では完全に裏目に出ています。
古代において祖先を守った戦略は、現代において「うつ」という名の精神疾患として扱われているのです。
4.最後に
本記事では、進化医学の視点から「うつ」という文明病を説明しました。
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難しい専門用語もないので、初心者にもオススメできます。
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